袈裟の深遠なる秘密!なぜ「ぼろ布」が最も尊い仏の衣なのか?

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

クイズ:仏教の教えにおいて、袈裟の素材として「最も清浄」とされるのは、次のうちどれでしょうか?

  1. 信心深い檀家から寄進された高級な絹織物
  2. 仏道修行者が自ら織った粗末な麻布
  3. 路上などに捨てられた、再利用されたぼろ布(糞掃衣)

原文の提示

「袈裟を裁縫するに、割截衣(カッセツエ)あり、揲葉衣(チョウヨウエ)あり、摂葉衣(ショウヨウエ)あり、縵衣(マンエ)あり。ともにこれ作法(サクホウ)なり。その所得にしたがうて受持すべし。

仏の言はく、「三世(サンゼ)の仏の袈裟は、必定して却刺(キャクシ)なるべし。」

その衣財(エザイ)をえんこと、また清浄を善なりとす。いはゆる糞掃衣を最上清浄とす。三世の諸仏、ともにこれを清浄としまします。

そのほか、信心檀那の所施(ショセ)の衣、また清浄なり。あるいは浄財をもていちにしてかふ、また清浄なり。

作衣(サクエ)の日限ありといへども、いま末法澆季(マッポウギョウキ)なり、遠方(オンポウ)辺邦(ヘンポウ)なり。信心のもよほすところ、裁縫をえて受持せんにはしかじ。」


現代語訳

袈裟を縫う方法には、布を断ち切って継ぎ合わせて作る割截衣、布を切り分けずに貼り付けて縫う揲葉衣、布のひだを畳んで葉を集めたように縫う摂葉衣、そして一枚の布に縁を付けただけの縵衣といった作法があります。
これらは全て袈裟の作り方であり、得られた材料に応じて袈裟を作り、護持しなさい。

釈尊は、「過去、現在、未来の仏たちが使う袈裟は、ほつれないように必ず返し縫い(却刺)で縫われている」と言っています。

袈裟の材料を得るには、清浄であることが大切で、中でも糞掃衣(捨てられたぼろ布を集めて作った衣)が最も清浄とされます。三世の諸仏もこれを清浄なものとされています。

その他、信心深い施主から施された衣も清浄であり、清浄な金銭で市場で買い求めたものもまた清浄です。

袈裟を縫い上げる期限が定められていますが、今は末法の末世であり、日本はインドや中国から遠く離れた辺境の国(遠方辺邦)です。だからこそ、信心に促されたなら、決められた日限にこだわらず、速やかに袈裟を裁縫して身につけることが何よりも大切なのです。


語句説明

  • 割截衣(カッセツエ):袈裟の作法の一つで、布を断ち切って細長い布(条)に縫い合わせて作った衣
  • 糞掃衣(フンゾウエ):捨てられたぼろ布を拾い集めて作った衣。清浄な衣材として最上とされる
  • 却刺(キャクシ):ほつれを防ぐために行う返し縫いのこと。三世の仏の袈裟は必ずこの縫い方であるとされる
  • 末法澆季(マッポウギョウキ):仏の教えの力が衰退した末世の時代

詳細な解説:袈裟の作法と素材に込められた教え

1.多様な袈裟の裁縫作法

袈裟の裁縫には、実に様々な作法が存在します。布を細かく切り継ぎ合わせる割截衣が一般的な作法とされますが、布をあまり切らずに貼り付けたり(揲葉衣)、ひだを畳んで形を整えたり(摂葉衣)する方法、さらには一枚の布に縁を付けただけの簡略な縵衣まで、すべてが正式な作法として認められています。これらの方法は、修行者が得られた衣材に応じて袈裟を作り、護持すれば良いと教えられています。

また、縫い方については、釈尊は「三世の仏の袈裟は、必ず却刺(返し縫い)である」と述べており、袈裟の耐久性と正確な伝承を重視する姿勢が示されています。仏祖が伝えてきた袈裟はみな返し針で縫われており、在家の者に授ける袈裟も同様とすべきだとされます。

2.最も清浄な素材「糞掃衣」の精神

袈裟の材料(衣財)において、最も優れているとされるのが「糞掃衣」です。糞掃衣とは、墓場に捨てられた死人の服や、牛や鼠に噛まれた服、焼け焦げた服など、人々が使用しない「ぼろ布」を拾い集めて作った衣のことです。

なぜ、このような汚いと思われる布が「最上清浄」とされるのでしょうか? これは、袈裟が「解脱服」や「福田衣」(福をもたらす田の衣)とも呼ばれるように、世間の価値観や執着を離れた絶対的な真実を象徴しているからです。金銀や高級な絹ではなく、人が厭い捨てるものを用いることで、修行者は貪り愛する心(貪愛)を離れ、煩悩を断つことができるのです。

この糞掃衣を着用することは、単なる質素倹約の推奨ではなく、三世の諸仏の皮肉骨髄(仏法の真髄)を正しく伝えることに他ならないと説かれています。

3.末法・辺邦における仏道の「柔軟性」

袈裟の作衣には本来、布を得てから縫い上げるまでの期限(日限)が定められていたようです。しかし、この教えは、「いま末法澆季なり、遠方辺邦なり」という現実認識に基づき、柔軟な姿勢を示しています。

道元禅師の時代、日本はインドや中国から遠い辺境の地(辺邦)であり、仏法の力が衰えた末世(末法)にあるとされていました。このような状況では、厳密な日限にこだわるよりも、信心の心に従って、すぐにでも裁縫して袈裟を受持し、修行に入ることが何よりも優先されるべきだとしています。

袈裟の功徳は、修行者の猛烈な精進の力によるものではなく、袈裟そのものの「神力」によるものだと教えられており、袈裟を一度でも身にまとい護持すれば、それが無上の悟り(無上菩提)を成就する護身の札となるのです。これは、袈裟の形を整えることが、修行者の内面的な成長を促す「形から入る」ことの重要性を示しています。


まとめ

袈裟は、単なる僧侶の衣服ではなく、「解脱の服」「福田の衣」という別名を持つ、仏法の真髄を象徴する宝物です。

糞掃衣」が最上とされる教えは、私たちに、世俗的な価値観や表面的な美しさにとらわれず、本質的な清浄さや、捨てられたものの中にこそ真の価値を見出すという、深い洞察を与えてくれます。

この袈裟の教えは、形式に縛られがちな現代において、真に大切なことは何かを問いかけているのではないでしょうか。私たちも、目の前の現実の中で、形式にとらわれすぎず、仏道への純粋な信心をもって、日常の行いを積み重ねていきたいものです。

クイズの答え

C. 路上などに捨てられた、再利用されたぼろ布(糞掃衣)

解説: 袈裟の素材として、糞掃衣(ふんぞうえ)を最上清浄とするとされています。これは、人が欲を離れて捨てたもの、世間の価値や執着を離れた材料を用いることが、清浄であるという教えに基づいています。信心深い檀那の施された衣や、浄財で買った布も清浄とされますが、糞掃衣が最高位とされています。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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