袈裟のサイズと条数に秘められた仏教の教え:修行者の衣に定められた厳格な規範

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

クイズ:七条衣や五条衣には、着丈や幅によって「上中下」の三品が定められていましたが、その寸法は、どの単位で表されていましたか?

  1. 尺(シャク)
  2. 肘(ひじ)
  3. 尋(じん)

原文

「鄔波離(ウバリ)、世尊(セソン)に白(まう)して曰く、「大徳世尊、嗢咀羅僧伽衣(ウッタラソウギャエ)、条数幾(いくば)くか有る。」

 仏の言はく、「但(た)七条のみ有りて、壇隔(だんきゃく)両長一短なり。」

 鄔波離、世尊に白して曰く、「大徳世尊、七条復た幾種か有る。」

 仏の言はく、「其れ三品(サンボン)有り、謂(い)く上中下なり。上は三五肘(さんごちゅう)、下は各半肘を減ず。二の内を中と名づく。」

 鄔波離、世尊に白して曰く、「大徳世尊、安咀婆娑衣(アンダバジャエ)、条数幾くか有る。」

 仏の言はく、「五条有り、壇隔一長一短なり。」

 鄔波離、復た世尊に白して言く、「安咀婆娑衣、幾種か有る。」

 仏の言はく、「三有り、謂く上中下なり。上は三五肘、中下前に同じ。」


現代語訳と背景

仏弟子の一人である鄔波離(うばり)が釈尊に尋ねました。

「世尊よ、嗢咀羅僧伽衣(七条衣)は、いくつの条数があるのですか」。

釈尊は答えました。「七条だけである。その条は、長い布二枚と短い布一枚で出来ている」。

鄔波離がさらに尋ねました。「七条衣には、何種類あるのですか」。

釈尊は答えました。「上中下の三種類がある。上品の寸法は、縦が三肘、横が五肘。下品はその長さからそれぞれ半肘を減らしたものである。この上下の間の大きさを中品と呼ぶ」。

次に鄔波離は尋ねました。「世尊よ、安咀婆娑衣(五条衣)の条数はいくつですか」。

釈尊は答えました。「五条である。その条は、長い布一枚と短い布一枚で出来ている」。

再び鄔波離が尋ねました。「安咀婆娑衣にも、何種類あるのですか」。

釈尊は答えました。「上中下の三種類がある。上品の寸法は、縦が三肘、横が五肘であり、中品と下品は先に説いた七条衣と同じである」。

この問答は、袈裟という修行の衣を身につけるための具体的な作法や規範がいかに重要であったかを示しています。七条衣と五条衣は、それぞれ修行や作務といった異なる目的に使われますが、それぞれに細かな寸法が定められていたのです。


語句説明

  • 鄔波離(うばり): 仏の十大弟子の一人である
  • 嗢咀羅僧伽衣(ウッタラソウギャエ): 七条衣のことで、中衣、または入衆衣とも呼ばれ、衆僧と共に修行する時などに着用される
  • 安咀婆娑衣(アンダバジャエ): 五条衣のことで、小衣、または内衣、行道作務衣とも呼ばれ、労務や日常の作務時に着用される
  • 条(じょう): 袈裟を構成するために縫い合わせられた布の列(段)のこと
  • 壇隔(だんきゃく): 袈裟を継ぎ合わせる布の切れのこと
  • 肘(ちゅう): 尺度の単位の一つで、ひじから中指の先までの長さ
  • 三品(サンボン): 袈裟の寸法の三つの種類、すなわち上中下のこと

詳細な解説

三衣の役割と条数・寸法

仏教の出家者は、五条衣、七条衣、大衣(九条衣以上)の三衣を必ず護持すべきだとされています。それぞれの袈裟は、その条数と作り方が明確に定められています。

五条衣(安咀婆娑衣)は、修行における雑用や労務(作務)を行う際、あるいは外から見えない処(屏処)に居る時に着用します。条数は五条であり、壇隔(条を構成する布片)は「一長一短」、すなわち長い布一枚と短い布一枚で構成されています。

七条衣(嗢咀羅僧伽衣)は、善事を行う時や、衆僧と共に修行する時(入衆)に着用されます。条数は七条のみであり、壇隔は「両長一短」、長い布二枚と短い布一枚で構成されています。

大衣(僧伽梨衣)は、九条から二十五条まで奇数で九種類があり、人前で威儀を正す必要がある時(王宮や村に入る時、人天を教化する時)に着用します。

寸法に込められた精神性

七条衣と五条衣の寸法は、上中下の三品に分けられていました。

  • 上品:縦三肘、横五肘。
  • 下品:それぞれ半肘を減じた寸法(縦二肘半、横四肘半)。
  • 中品:上品と下品の中間のサイズ。

この寸法規定は、袈裟の本来の精神を反映しています。袈裟は元来、糞掃衣(ふんぞうえ)、すなわち「捨てられたぼろ布を拾い集めて作った衣」を最上清浄な衣材とすることから始まりました。糞掃衣は、人間、天人、龍神などが重んじて守ってきたものとされ、たとえ「戯れに袈裟を着けたとしても、それは必ず仏道を悟る因縁となる」ほど、その功徳は計り知れないものです。

袈裟の条数が多いほど、はぎ合わせる布が小さくなり、より手間がかかっている点で正式な衣服と見なされました。寸法が定められ、その最大サイズ(上品)が示されるのは、「布が充分にあって大きくできる場合を『上』とし、『下』は最低限必要な大きさ」とする考えに基づいています。この細部にわたる厳格な規定は、修行者が形式を通して、仏の教え(法)と一体となることを促すためであり、「形がその姿を作り、内面を作り、本質を自ずと作っていく」という仏道の教えを体現していると言えるでしょう。


問いかけとまとめ

袈裟の条数や寸法といった一見形式的な規定の裏には、修行者が仏道を歩む上で欠かせない「慚愧(ざんき)の心」(恥ずかしい思いをせず善法を修行する心)や「五欲(名誉欲、色欲など)を離れる」という、深い精神性が隠されていました。袈裟は、仏祖が代々伝えてきた衣と法そのものであり、これを身につけることは、仏の光明に照らされることと同義なのです。

私たちも、日常生活において、形式や作法を意識することで、自らの行動や心持ちが整う経験をすることがあります。袈裟の教えは、形を整えることがいかに精神的な高みへと繋がるかを教えてくれています。


クイズの答え

B. 肘(ひじ)

解説:

袈裟の寸法は「肘(ひじ)」を単位として定められていました。七条衣と五条衣の上品の寸法は縦三肘、横五肘であり、この肘は、ひじから中指の先までの長さを指します。仏教の規範が、体色量(たいしきりょう)という具体的な形にまで及んでいたことが分かります。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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