袈裟(けさ)の奥深き世界:その種類と知られざる功徳

袈裟(けさ)の奥深き世界:その種類と知られざる功徳

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

クイズ:仏弟子が人々に教えを説く際、または王宮や村に入る際に着用が勧められる袈裟の種類は何でしょうか?

  1. 五条衣(ごじょうえ)
  2. 七条衣(しちじょうえ)
  3. 大衣(だいえ)

原文

若し経営作務(サム)、大小の行来(ギョウライ)には五条衣を著(ヂャク)す。諸の善事を為し、入衆(ニュッシュ)するには七条衣を著す。

人天(ニンデン)を教化(キョウケ)し、其(ソレ)をして敬信(キョウシン)せしむるには、須(スベカ)らく九条等の大衣を著すべし。

又 屏処(ヘイショ)に在(ア)らんには五条衣を著し、入衆の時には七条衣を著す。若し王宮(オウグウ)聚落(ジュラク)に入るには、須らく大衣を著すべし。

現代語訳

もし、人の世話や掃除などの仕事、大小便の行き来には五条衣を着る。僧としてさまざまな善き行事を為す時、衆僧と共に修行する時には七条衣を着る。

人々を教化して、仏法を敬い信じさせる時には、必ず九条衣などの大衣を着るようにしなさい。

又、外から見えない処に居る時には五条衣を着け、衆僧と共に修行する時には七条衣を着けます。もし王宮や村に入る時には、必ず大衣を着けなさい。


語句説明

  • 五条衣(ごじょうえ): 袈裟の一種で、5枚の布を継ぎ合わせて作られる小衣(しょうえ)。主に日常の雑務や私的な場所で着用される
  • 七条衣(しちじょうえ): 袈裟の一種で、7枚の布を継ぎ合わせて作られる中衣(ちゅうえ)。衆僧と共に修行する際や、善き行事を為す時に着用される
  • 九条衣(くじょうえ)などの大衣(だいえ): 袈裟の一種で、9枚以上の布を継ぎ合わせて作られる大衣。人々に教えを説く際や、王宮や村など公的な場所に入る際に着用される
  • 人天(にんでん): 人間界と天界の衆生(しゅじょう)
  • 教化(きょうけ): 仏の教えを説き、人々を導き感化すること
  • 敬信(きょうしん): 敬い信じること
  • 屏処(へいしょ): 人目につかない場所、私的な場所
  • 王宮(おうぐう)聚落(じゅらく): 王宮や村、つまり一般の人々がいる公的な場所

解説

袈裟の種類と使い分けの基準

袈裟は、僧侶が身につける最も大切な「仏の衣」であり、その種類と着用場面には厳格な定めがあります。
源流であるインドや中国では、在家の者でさえ袈裟を身につけることが重要視されていました。これは、袈裟が単なる衣服ではなく、仏法そのものの象徴であると見なされていたためです。

  • 五条衣:最も日常的で簡素な袈裟です。人の世話や掃除といった「作務(さむ)」、大小便のために移動する「行来(ぎょうらい)」など、私的な活動や場所で着用されます。
  • 七条衣:五条衣よりも一段格式が上がります。衆僧と共に修行する「入衆(にっしゅ)」や、様々な善行を行う際に着用されます。
  • 大衣(九条衣以上):最も格式高く、公式な場で着用される袈裟です。人々に仏法を「教化(きょうけ)」し、敬い信じさせるため、また、王宮や村といった公的な場所に入る際に身につけるべきものとされます。これは、袈裟を着用することで、その人が仏弟子としての威厳を示し、人々を感化する力を持つことを意味しています。

これらの使い分けは、袈裟が単なる服装ではなく、修行の目的や状況に応じてその意味合いを深めるための「作法(さくほう)」であることを示しています。

袈裟の素材と功徳

袈裟の素材は、元来、粗末な麻や綿の布を基本とし、それらが手に入らない場合にのみ、より上質な布や白絹、さらには革の使用が許されていました。
特に糞掃衣(ふんぞうえ)と呼ばれる、捨てられたぼろ布を拾い集めて作った袈裟は、最も清浄で最上のものとされています。
これは、世間の価値基準とは異なる、質素と清浄を尊ぶ仏教の精神を表しています。

袈裟の功徳は計り知れないとされ、それを身に着けること、あるいはその一部を見るだけでも、大きな利益(りやく)が得られると説かれています。
例えば、誤った考えを持つ者でも敬いの心を起こせば成仏への保証が得られ、袈裟を見ただけで「不退転(ふたいてん)」の力を得ることができるとされています。
また、飢えや貧困に苦しむ者も袈裟の一部を得れば、願いが成就すると言われています。さらに、戦争や争いの中にいる者が袈裟を念じれば、慈悲の心が生まれ、困難を乗り越えることができるとされます。

袈裟の象徴的意味

袈裟は「仏弟子(ぶつでし)の標幟(ひょうし)」(目印)であり、様々な名称で呼ばれます。
例えば、「解脱服(げだっぷく)」は煩悩から解脱させる衣、「福田衣(ふくでんえ)」は福をもたらす衣、「甲冑(かっちゅう)」は煩悩の毒矢から身を守る衣といった具合です。
これらの呼び名は、袈裟が単なる布切れではなく、仏法そのものの象徴であり、仏の身体や心であるという深い意味合いを持っていることを示しています。

この衣を身にまとうことは、修行者自身の「勇猛精進(ゆうもうしょうじん)」の力によるものではなく、袈裟自体の神力(じんりき)によるものだと説かれています。
袈裟を一度でも身にまとい、ほんのわずかな間でも護持(ごじ)すれば、それが「無上菩提(むじょうぼだい)」を成就する「護身符子(ごしんふし)」、つまりお守りとなるのです。
これは、形を整えることが内面を形成し、本質を自ずと作っていくという、禅師の「形から入る」という思想を反映しています。


問いかけとまとめ

袈裟一つにも、これほどまでの深い意味と伝統が込められていることに驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。袈裟は、単に僧侶の制服というだけでなく、仏道の真髄を伝える重要な「証(あかし)」であり、私たちを悟りの道へと導く力強い象徴なのです。

袈裟を通して、仏教の精神、質素を尊ぶ心、そして形を重んじることの意義について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
日々の生活の中で、一つ一つの行為に丁寧に向き合うことの大切さを、袈裟の教えから学ぶことができるかもしれません。


クイズの答え

答えは C. 大衣 です。

解説: 大衣(九条衣以上)は、人々に仏法を教え導く「教化」の時や、王宮や村など公的な場に入る際に着用される、最も格式の高い袈裟です。これは、袈裟が仏弟子としての威厳を示し、見る者に歓喜や敬信の心を生じさせる力を持つためとされています。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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合掌
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