ぼろ布が「最高の聖なる衣」に? 仏教の究極の清浄「糞掃衣」の不思議な世界

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

クイズ:袈裟の材料として最高の「糞掃衣」に分類される、ある特殊な布があります。それは次のうちどれでしょう?

  1. 牛が噛んで捨てた服
  2. 神社(神廟)に捧げて捨てられた服
  3. 産婦が用いて汚れた服

原文

「四種の糞掃あり、十種の糞掃あり。

その糞掃をひろふとき、まづ不穿(フセン)のところをえらびとる。つぎには大便小便ひさしくそみて、ふかくして浣洗(カンセン)すべからざらん、またとるべからず。浣洗しつべからん、これをとるべきなり。

十種糞掃衣。

一、牛嚼衣(ゴジャクエ)。
二、鼠嚙衣(ソコウエ)。
三、火焼衣。
四、月水衣。 
五、産婦衣。
六、神廟衣。
七、塚間衣(チョウケンエ)。
八、求願衣(グガンエ)。
九、王職衣。
十、往還衣(オウゲンエ)。

この十種、ひとのすつるところなり、人間のもちゐるところにあらず。これをひろうて袈裟の浄財とせり。三世の諸仏の讃歎しましますところ、もちゐきたりましますところなり。」


現代語訳

ぼろ布(糞掃)には、分類として四種類と、より具体的な十種類があります。
このぼろ布を拾うときには、まず穴が開いていない部分(不穿)を選んで取ります。そして、大小便が長く染み込んで、洗っても落ちないような布は、取ってはいけません。きれいに洗い清めることができる布(浣洗しつべからん)こそが、取るべきものとされています。

十種の糞掃衣とは、以下の通りです。

  • 牛嚼衣(ごじゃくえ):牛が噛んだ服
  • 鼠嚙衣(そこうえ):鼠がかじった服
  • 火焼衣:焼け焦げた服
  • 月水衣:月経で汚れた服
  • 産婦衣:産婦が用いて汚れた服
  • 神廟衣:神廟に捧げて捨てられた服
  • 塚間衣(ちょうけんえ):墓場に捨てられた死人の服
  • 求願衣(ぐがんえ):山野で神に祈願して捨てた服
  • 王職衣:国王が即位や灌頂の儀式の後に捨てた服
  • 往還衣(おうげんえ):葬儀の時に死者に掛けていた服

この十種の布は、人が捨て、人間が通常使用しないものです。修行者はこれらを拾い集め、袈裟を作るための清浄な衣材(浄財)とします。この糞掃衣は、過去・現在・未来のすべての仏たちが讃嘆し、実際に用いてきたものなのです。


語句説明

  • 糞掃衣(ふんぞうえ):捨てられたぼろ布を拾い集めて作った袈裟。世俗の執着から離れた最も清浄な衣材とされる
  • 不穿(フセン):布に穴が開いていない部分
  • 浣洗(カンセン):洗い清めること
  • 浄財(じょうざい):清浄な衣材。施主からの布施も含まれるが、糞掃衣が最上とされる
  • 三世の諸仏(さんぜのしょぶつ):過去・現在・未来のすべての仏

詳細な解説:最高の清浄を求める修行の姿

1. 袈裟の材料は「清浄さ」が最優先

仏教の教えにおいて、袈裟の材料は「清浄」であることが重要とされ、中でも糞掃衣(ぼろ布)が最も第一の清浄な衣材(最上清浄)であるとされます。
糞掃衣の「糞掃」という言葉は、排泄物の意味ではなく、「けがれを払い除く」「はきすて」という意味合いが込められています。つまり、世間の人が「いいな」「立派だな」と思わないような、価値や執着を離れたものを用いるのが本義です。この衣を着用することは、単に破れ衣を着る貧しい姿を意味するのではなく、仏法の真髄(正法眼蔵)を正しく伝えるという精神性を象徴しています。

2. 十種のぼろ布が示す「世俗からの離脱」

原文で列挙されている十種の糞掃衣は、一見すると不潔で忌避されるような布ばかりです。しかし、これらはすべて「人が捨てる」「人間が使用しない」という点で共通しており、世俗の価値や執着、あるいは不浄という人間的な判断から解放された布であることを示しています。
例えば、塚間衣(墓場に捨てられた死人の服) は、生と死という二元論的な執着を超越する意味を持ちます。また、王職衣(国王が儀式の後に捨てる服)は、最高の権威から離れたもの、つまり世俗的な栄華も価値を失ったものとして捉えられます。
修行者は、これらの布を拾い集め、世間の価値観(絹か綿か)を捨て、袈裟をただ仏法の象徴として見るという、仏道の奥深い教えを実践するのです。

3. ぼろ布を「清浄に再生する」という作法

糞掃衣を拾い集める作業は、非常に厳格なルールに基づいて行われます。

  1. 汚物(大便、小便、鼻水、唾など)で汚れていても、洗って清浄にできる部分。
  2. 穴が開いていない部分(不穿)。

特に、汚れていない部分や破れていない部分だけを裂いて取るという作法は、閑寂処で修行する僧(阿練若比丘)の行いとして説かれています。この選定基準は、修行者が他人の行いを見る際にも適用されます。たとえば、身の行いが不浄でも、言葉や心が清浄である人に対しては、その不浄な部分を心に念じてはならず、清浄な部分だけを思いなさい、という教えに喩えられています。
袈裟を清浄なものにするためには、丁寧に洗う方法も定められており、水桶に入れ、沸かした湯や灰水(あくの湯)に浸して垢や油を取り除くこと、また両手でもみ洗いしたり踏んだりしないことなど、袈裟を大切に扱う作法が示されています。
この徹底した清浄の追求こそが、単なる「ぼろ布」を、諸仏が讃嘆する解脱への服(解脱服)とする所以なのです。


まとめ:仏道の真髄は足元に

袈裟は、煩悩を解脱する服、福をもたらす衣など、多くの尊い呼び名を持つ、仏弟子であることの目印(標幟)です。この衣を身に着けることは、修行者の猛烈な修行の力ではなく、袈裟の持つ不思議な力(神力)による功徳が大きいとされます。
ぼろ布を拾うことから始まるこの教えは、私たち自身の日常生活における価値観の転換を促します。私たちは、世間の目や物質的な豊かさに惑わされがちですが、本当に大切な「清浄さ」や「真実」は、捨てるものの中、あるいは日常の地道な行いの中にこそ見いだせるのかもしれません。

あなたの日常の中で、何か「世間の価値観を捨てて見直すべきもの」はありますか。仏道の奥深い教えは、常に私たちの足元にあるのかもしれません。


クイズの答えと解説

クイズの答え: A. B. C. すべて正解です!

解説:
これら三つ(牛嚼衣、神廟衣、産婦衣)は、十種の糞掃衣として列挙されており、いずれも「人間が使用しない」もの、すなわち世俗的な執着や不浄から離れた清浄な衣材と見なされました。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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