「三種の袈裟」に隠された仏教の知恵:TPOで使い分ける仏弟子の正装の秘密

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に

クイズ:最も格式が高いとされる「大衣(僧伽梨衣)」を着ていきたい場所は、次のうちどれでしょうか?

  1. 掃除や畑仕事などの作業中
  2. 衆僧(修行仲間)と一緒にいる時
  3. 王宮や人々に説法をする時

原文

仏(ほとけ)の言(いは)く、「安咀婆娑衣(あんだばしゃえ)、復(また)二種(にしゅ)有り。
何をか二と為(な)す。一(ひとつ)には豎二肘(じゅにちゅう)、横五肘(おうごちゅう)。二には豎二、横四なり。

僧伽胝(そうぎゃち)は、訳して重複衣(じゅうぶくえ)と為す。
嗢咀羅僧伽(うったらそうぎゃ)は、訳して上衣(じょうえ)と為す。安咀婆娑は、訳して内衣(ないえ)と為す。又、下衣(げえ)と云ふ。」

又云く、「僧伽梨衣(ソウギャリエ)は、謂(い)く大衣(だいえ)なり。
また、入王宮衣(ニュウオウグウエ)、説法衣(セッポウエ)と云ふ。鬱多羅僧(ウッタラソウ)は、謂く七条衣(しちじょうえ)なり。又、中衣(ちゅうえ)、入衆衣(ニッスエ)と云ふ。
安陀会(アンダエ)は、謂く五条衣(ごじょうえ)なり。又、小衣(しょうえ)、行道作務衣(ギョウドウサムエ)と云ふ。」

この三衣(さんえ)、かならず護持(ごじ)すべし。また僧伽胝衣に六十条の袈裟あり、かならず受持(じゅじ)すべし。


現代語訳

お釈迦様は更に言いました。「また内衣(アンダバシャ衣)には二種類あり、一つは縦二肘・横五肘のもの、もう一つは縦二肘・横四肘である。
僧伽胝は『重複衣(裏地のある衣)』、嗢咀羅僧伽は『上衣』、安咀婆娑は『内衣』または『下衣』と訳される。」

「また別の呼び方では、僧伽梨衣(ソウギャリエ)は『大衣』といい、入王宮衣(王宮で説法する時の袈裟)や説法衣とも呼ばれる。鬱多羅僧(ウッタラソウ)は『七条衣』であり、中衣や入衆衣(衆僧と共に過ごす時の袈裟)とも呼ばれる。安陀会(アンダエ)は『五条衣』であり、小衣や行道作務衣(作業する時の衣)ともいう。」

「出家者は、この三種の衣(袈裟)を必ず大切に護り持ちなさい。また、大衣(僧伽胝衣)には六十条の袈裟もあるので、それも必ず受持しなさい。」


語句説明

  • 三衣(さんえ):仏教の僧侶が必ず持つべき三種類の袈裟(五条衣、七条衣、大衣)の総称
  • 僧伽梨衣(ソウギャリエ):大衣、重複衣、入王宮衣、説法衣とも呼ばれる、最も格式の高い袈裟
  • 鬱多羅僧(ウッタラソウ):七条衣、上衣、中衣、入衆衣とも呼ばれる、衆僧と共にいる時に着用する袈裟
  • 安陀会(アンダエ)/ 安咀婆娑衣(アンダバシャエ):五条衣、内衣、下衣、小衣、行道作務衣とも呼ばれる、日常の作業時に着用する袈裟
  • 肘(ちゅう):長さの単位で、ひじから中指の先までの長さ(約45cm前後)
  • 重複衣(じゅうぶくえ):裏地をつけた衣の意で、僧伽胝衣(大衣)の別称
  • 行道作務衣(ギョウドウサムエ):行い(修行)や作務(仕事)をする時に着用する衣

詳細な解説:仏道の「形」を定める三衣の使い分け

仏教において、袈裟は仏弟子の「標幟(目印)」であり、単なる衣服ではなく、仏法そのものの象徴(衣法)と見なされます。特に三衣は、修行者が持つべき必要最低限の衣とされ、これを護持する(大切に持つ)ことが求められます。
三衣(五条衣、七条衣、大衣)は、それぞれ条(布の継ぎ目)の数が奇数となっており、その役割は、修行者が置かれている状況(TPO)によって厳密に分けられていました。これは、修行の場に応じて心構えを切り替えるための「心のスイッチ」のような役割も担っていました。

  1. 行道作務衣:五条衣(安陀会/小衣)の役割
    五条衣は、行道作務衣とも呼ばれる通り、最も日常的な「仕事着」です。掃除や人の世話、大小便の行き来といった労務を行う時、または外部から見えない閑寂な場所(屏処)にいる時に着用します。
    これは、修行者としての謙虚さや、煩悩を断つ努力が最も必要とされる「日常の雑事」に身を置く際の心構えを示しています。
  2. 入衆衣:七条衣(鬱多羅僧/中衣)の役割
    七条衣は入衆衣と呼ばれ、衆僧(多くの修行者)と共にいる時や、さまざまな善事を行う時に着用する衣です。これは、集団の中で規律を守り、調和を保ちながら修行に励むための「制服」としての役割を果たします。
    お釈迦様は、寒さの程度に合わせて五条衣、七条衣、大衣を順に重ね着したというエピソードもあり、寒冷時には防寒着としての機能も果たしました。
  3. 入王宮衣・説法衣:大衣(僧伽梨衣)の役割
    大衣は、九条以上の布を継ぎ合わせて作られる最も大きな袈裟で、入王宮衣や説法衣と呼ばれます。この袈裟は、王宮や村など一般の人々の集落に入る時や、人々を教化し、信仰を促す時、つまり最も正式で威厳が求められる場面で着用されます。大衣は裏地が付いた「重複衣」とも訳されます。
    修行者は、この大衣を身につけることで、自らが仏法を体現しているという自覚を持ち、見る人に歓喜と敬信の心を生じさせるという功徳(効用)があります。

袈裟は、その功徳によって「煩悩の毒矢も害すること能(あた)わず」とされる金剛の甲冑に喩えられます。袈裟を身につけるという「形」は、修行者の勇猛精進の力(猛利恆修)に頼るのではなく、袈裟自体の不思議な力(神力)によって仏道の功徳を成就させるという教えが込められています。


問いかけとまとめ

仏教の「三衣」の教えは、私たち現代人にも通じる深い意味を持っています。五条衣が示す「日常の謙虚さ」、七条衣が示す「集団の中での調和と修行」、大衣が示す「公的な場での責任と威厳」。
もしあなたが、今日一日を「大衣を着て過ごすつもり」で臨むとしたら、どのような意識の変化があるでしょうか。

袈裟は、その材質が粗末な布(糞掃衣)であろうと、絹布であろうと関係なく、「仏法の真髄(正法眼蔵)」を正しく伝えるものです。私たちも、袈裟を護持する修行者と同じように、この「形と心の一致」の教えを意識し、日々の生活の中で福徳の種を蒔いていきましょう。


クイズの答え:C

解説:
大衣(僧伽梨衣)は、入王宮衣、説法衣とも呼ばれる、最も格式の高い袈裟です。人々を教化し、仏法への敬信を促すために着用されます。

  1. 作業中は五条衣(安陀会/行道作務衣)。
  2. 衆僧と共にいる時は七条衣(鬱多羅僧/入衆衣)。
この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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