仏教の「フォーマルウェア」:大衣(僧伽胝衣)に秘められた九種の条数と厳格なサイズ規定

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

クイズ:この大衣に許されている最大の条数は、次のうちどれでしょうか?

  1. 十五条
  2. 二十一条
  3. 二十五条

原文

具寿鄔波離(ぐじゅウバリ)、世尊に請ふて曰く、「大徳世尊、僧伽胝衣(ソウギャチエ)、条数幾(イク)ばくか有る。」

仏の言(ノタマ)はく、「九有り。何をか謂って九と為す。謂(イワ)く、九条と十一条と十三条、十五条と十七条と十九条、二十一条と二十三条と二十五条なり。

其の僧伽胝衣、初め三品(サンボン)は、其の中の壇隔(ダンキャク)は両長一短なり、是の如く持すべし。

次の三品は、三長一短なり。

後の三品は、四長一短なり。是の条を過ぐるの外は、便(スナワ)ち破衲と成る。」

鄔波離、復た世尊に白して曰く、「大徳世尊、幾種の僧伽胝衣か有る。」

仏の言はく、「三種あり、謂(イワ)く上中下なり。上は豎(タテ)三肘(サンチュウ)、横五肘。下は豎二肘半、横四肘半。二の内を中と名づく。」


現代語訳

仏弟子の長老である鄔波離は釈尊に尋ねました。「大いなる徳を持つ世尊よ、大衣(僧伽胝衣)には、縫い合わせる条(じょう)の数がいくつあるのでしょうか。」

釈尊は答えました。「九種類あります。それは、九条、十一条、十三条、十五条、十七条、十九条、二十一条、二十三条、そして二十五条です。」

「その大衣は、初めの三種(九条、十一条、十三条)は、その中の壇隔(布の断片)を長い布二枚と短い布一枚(両長一短)で作るようにしなさい。」

「次の三種(十五条、十七条、十九条)は、各条を長い布三枚と短い布一枚(三長一短)で組み合わせ、後の三種(二十一条、二十三条、二十五条)は、長い布四枚と短い布一枚(四長一短)で縫い合わせなさい。この条数(九条から二十五条)を過ぎた大衣は、僧衣の定めを破るもの(破衲)となります。」

鄔波離は重ねて尋ねました。「世尊よ、僧伽胝衣には、サイズの異なる種類がいくつあるのでしょうか。」

釈尊は答えました。「上中下の三種があります。(サイズの)上は縦の長さが三肘、横の長さが五肘。(サイズの)下は縦が二肘半で横が四肘半の長さです。この二つの間の大きさを中と呼ぶのです。」


語句説明

  • 具寿(ぐじゅ):長老や上座といった年功を積んだ僧侶への尊称
  • 僧伽胝衣(そうぎゃちえ):三衣の一つで、大衣(だいえ)とも呼ばれる最も格式の高い袈裟
  • 条(じょう):袈裟を構成する、縦に縫い合わせられた布の列
  • 壇隔(だんきゃく):袈裟を縫い合わせる際に使われる、細長く切った布の断片
  • 破衲(はのう):僧侶の衣服の規定(作法)を破ったもの
  • 肘(チュウ):長さの単位で、ひじから中指の先までの長さ

詳細な解説

大衣の「九種類」が示す仏教の理想

大衣(僧伽胝衣)は、九条から二十五条まで、奇数で九種類の条数が認められています。五条衣、七条衣も袈裟ですが、九条以上を大衣と呼びます。

ここで重要なのは、条数が多くなるほど、袈裟全体の長さや幅が大きくなるわけではないという点です。むしろ、継ぎ合わせる布がより細かく小さくなり、その数が増えることを意味します。

袈裟の本来の材料は、もともと「糞掃衣」(ふんぞうえ:捨てられたぼろ布を拾い集めて作った衣)であり、粗末であることが貴ばれました。条数を多くして細かく継ぎ接ぎする作法は、より多くの「糞掃」を用いており、世間的な価値観から離れた質素さや清浄さ、そして仏法の威厳を示すものと解釈されます。これは「ぼろであるほど高貴である」という、仏教の逆説的な精神を体現しています。

厳格な縫製のルール「長布と短布の比率」

大衣の九種類の条数は、それぞれ三つのグループに分けられ、布の断片(壇隔)を組み合わせる際の「長」と「短」の枚数比率が定められています。

  • 初めの三品(九条・十一条・十三条):長い布二枚に対して短い布一枚(両長一短)。
  • 次の三品(十五条・十七条・十九条):長い布三枚に対して短い布一枚(三長一短)。
  • 後の三品(二十一条・二十三条・二十五条):長い布四枚に対して短い布一枚(四長一短)。

これらの条数を越えて製作されたものは「破衲」となり、正規の僧衣とは認められません。この詳細かつ厳密な規定は、袈裟の形を正しく護持することが、仏道修行における根本的な規範であり、師から弟子へと正しく法が伝わることの証(伝法衣)でもあったためです。

上中下三種の寸法規定

大衣には、さらにサイズの分類として上中下の三種が定められています。ここでは「肘(ひじ)」という具体的な身体の長さを基準として寸法が示されました。

  • :縦三肘、横五肘。
  • :縦二肘半、横四肘半。
  • :上と下の中間の大きさ。

これは、僧侶が用いるべき衣服のサイズに一定の基準を設けるためですが、袈裟は単なる衣服ではなく仏法そのものの象徴であるため、その「体色量」(布の材質、色、大きさ)を明らかにして学ぶことが、仏祖の教えを究めることにつながると考えられました。正しい「形」を身につけることが、修行者の内面を整え、道心を堅固にする力を持つとされるのです。


問いかけとまとめ

袈裟のわずかな条数や寸法にさえ、仏教徒が守るべき厳格な規範が込められていることは驚きです。袈裟は、その形を守るだけで、たとえ一瞬でも身にまとうだけで「無上の悟りを成就する護身符」となるほどの功徳があると説かれています。

これは、私たちの日常生活においても、「形」を整えることが「心」を整えることにつながるという示唆を与えてくれます。日々の作法や習慣を大切にすることは、袈裟をまとうことと同じく、自分自身を最上級の福田(幸福を生み出す基盤)へと導くのかもしれません。

あなたにとって、日々の生活の中で最も大切にしたい「形」とは何でしょうか。その作法一つ一つに、仏道の功徳にも通じる深い意味を見いだしてみてはいかがでしょうか。


クイズの答え

C. 二十五条

解説: 大衣(僧伽胝衣)は九条から始まり、九条、十一条、十三条、十五条、十七条、十九条、二十一条、二十三条、二十五条までの奇数で九種類の条数が定められています。この二十五条が最も条数の多い大衣であり、これを超える条数は「破衲」(規定を破るもの)とされます。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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