争いを鎮める不思議な力、袈裟に秘められた功徳

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

クイズ:袈裟の功徳を念じることで生まれる心の中で、含まれていないものはどれでしょう?

  1. 柔らかな心
  2. 競争に打ち勝つ心
  3. 争いのない心

原文

若し衆生有って、共に相ひ違反(あいいはん)し、怨賊(オンゾク)の想(おもい)を起(おこ)して、展転闘諍(テンデントウジョウ)せん、
若しは諸天龍、鬼神、乾闥婆(ケンダッパ)、阿修羅(アシュラ)迦楼羅(カルラ)、緊那羅(キンナラ)、摩睺羅伽(マゴラガ)、狗辨荼(クバンダ)、毘舎遮(ビシャジャ)、人及び非人、共に闘諍(とうじょう)せん時、此の袈裟を念ぜば、袈裟の力に依って、尋(ツ)いで悲心、柔輭(ニュウナン)の心、無怨賊(ムオンゾク)の心、寂滅の心、調伏(チョウブク)の善心を生じて、還(マ)た清浄(ショウジョウ)なることを得ん。


現代語訳

もし、人々がお互いに背き、恨み合って争い、訴訟を起こしあう時。
あるいは、天神、龍神、鬼神といった人ではない者たちも含めて、皆が争い合う時に、この袈裟を心に念じれば、袈裟の力によって、すぐに慈悲の心(悲心)、柔軟な心(柔輭の心)、争いの無い心(無怨賊の心)、安らかな心(寂滅の心)、そして悪を制する善い心(調伏の善心)が生まれ、再び清浄な状態に戻ることができるでしょう。


語句説明

  • 乾闥婆(ケンダッパ): 帝釈天に仕える伎楽神
  • 阿修羅(アシュラ): 戦闘を事とする鬼神
  • 迦楼羅(カルラ): 生竜を常食とする巨大な猛鳥
  • 緊那羅(キンナラ): 帝釈天に仕える歌神
  • 摩睺羅伽(マゴラガ): 人身蛇首の大蛇神
  • 狗辨荼(クバンダ): 人の精気を食う鬼
  • 毘舎遮(ビシャジャ): 血肉を食う鬼

詳細な解説

袈裟がもたらす心の変革

袈裟は「解脱服」や「福田衣」とも呼ばれ、諸仏が敬い帰依する仏身であり、仏心そのものとされます。
この教えは、たとえ人間界(人、非人)や神々の世界(諸天龍、鬼神、八部衆)で激しい争い(闘諍)が起きていても、袈裟の持つ不思議な力(神力)によって、即座に心を清浄な状態に戻すことができると説きます。

特に注目すべきは、この心の変化が「行者の猛利恒修(たゆまぬ激しい修行)のちからにあらず」、つまり、修行者の個人的な努力や才能ではなく、袈裟そのものが具える功徳によるものである、という点です。袈裟を身にまとうこと、あるいは袈裟を心に念じることによって、自然と慈悲や柔軟さといった善心が生まれるのです。

紛争と難を乗り越える力

袈裟の功徳は、単に争いを鎮めるだけでなく、個人の困難にも及びます。例えば、飢えや渇きに苦しむ人々、貧窮の鬼神や餓鬼までもが、袈裟のわずかな一部(四寸ほど)を得ただけで、飲食に満ち足り、願いが速やかに成就すると言われます(功徳その三)。

さらに、戦争や訴訟といった社会的な争いの最中にあっても、袈裟を「供養し恭敬し尊重」するならば、常に他に勝つことができ、諸々の難を越えることができるとされます(功徳その五)。

この「勝つ」という言葉は、仏教の問題解決のあり方として一見異例ですが、争いの中で理不尽な主張を押しとどめ、自らの心を清浄に保ち、難を克服するという精神的な勝利を示すものと解釈できます。

袈裟を念じることは、困難な状況(雷電霹靂のような苦難)を人生の「様相」の一つに過ぎないと自覚し、恐れをなくすための教えであり、最終的には、無上の悟り(菩提)を成就する護身の札となるのです。


問いかけとまとめ

袈裟は、仏道の教え(法)そのものを象徴しており、私たちが常に正道に立ち返るための「旗印」です。

争いの多い現代社会に生きる私たちも、この袈裟の教えを通して説かれる「悲心」と「寂滅の心」を大切にし、形だけでなく、その背後にある仏祖正伝の精神を心に抱き続けることが重要ではないでしょうか。


クイズの答え

クイズの答えは B. 競争に打ち勝つ心 です。

解説: 袈裟を念じることで生まれる心は、悲心、柔輭(柔軟)の心、無怨賊(争いのない)の心、寂滅(安らかな)の心、調伏の善心であり、最終的に清浄なることを得ます。
袈裟の功徳には、争いを乗り越え「常に他に勝つ」という記述もありますが、これは憎しみや欲望に基づく「競争心」ではなく、理不尽を退け、善心によって難を克服する結果として説かれています。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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