仏教の「袈裟」に秘められた驚きの功徳と、仏祖から伝わる「正伝」の教えとは?

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

道元禅師が『正法眼蔵』の中で特に重要視し、中国では達磨大師だけがもたらしたと説く「袈裟」とは、どのような伝承の袈裟のことでしょう?

  1. 精巧な刺繍が施された高価な袈裟
  2. 仏教美術としての価値が高い袈裟
  3. 仏祖から師から弟子へと正しく直接的に受け継がれてきた「正伝の袈裟」

『正法眼蔵』に説かれる袈裟の伝承

まずは、『正法眼蔵』「袈裟功徳」巻に記されている原文を見てみましょう。少し難しく感じるかもしれませんが、現代語訳と合わせて読んでみてください。

 仏化(ブッケ)のおよぶところ、三千界いづれのところか袈裟(ケサ)なからん。しかありといへども、嫡嫡面授(テキテキメンジュ)して仏袈裟を正伝(ショウデン)せるは、ただひとり嵩岳(スウガク)の曩祖(ノウソ)のみなり。旁出(ボウシュツ)は仏袈裟をさづけられず。

二十七祖の旁出、跋陀婆羅菩薩(バダバラボサツ)の伝、まさに肇法師(ジョウホッシ)におよぶといへども、仏袈裟の正伝なし。

震旦(シンタン)の四祖大師、また牛頭山(ゴヅサン)の法融禅師をわたすといへども、仏袈裟を正伝せず。しかあればすなはち、正嫡(ショウテキ)の相承(ソウジョウ)なしといへども、如来の正法、その功徳むなしからず、千古万古みな利益広大なり。

正嫡相承せらんは、相承なきとひとしかるべからず。しかあればすなはち、人天もし袈裟を受持せんは、仏祖相伝の正伝を伝受すべし。

現代語訳

仏の教えが及ぶあらゆる世界で、どこに袈裟が無いということがあろうか。しかしながら、師から弟子へ直に袈裟を授けて、仏の袈裟を正しく伝えているのは、ただ一人、嵩岳の達磨大師だけである。 正嫡ではない傍系の伝承では仏の袈裟は授けられていない。
第二十七祖の傍系に当たる、跋陀婆羅菩薩からの伝承は、ちょうど肇法師にまで及んでいるけれども、仏の袈裟の正しい伝承はない。
中国の四祖大師も、牛頭山の法融禅師に法を伝えているけれども、仏の袈裟を正しく伝えていない。
そうであるから、正嫡の伝承でなくとも、如来の正しい法は、その功徳がむなしくなることはなく、遠い過去から未来永劫まで、すべて利益は広大である。
正嫡の伝承を受けたことは、伝承がないことと同等であってはならない(正嫡の方が優れている)。 そうであるから、人間や天人がもし袈裟を受けるならば、仏祖が代々伝えてきた正しい伝承の袈裟を受け継ぐべきである。

語句の説明

  • 仏化(ブッケ): 仏の教えが及ぶ範囲
  • 三千界(サンゼンカイ): 仏教の世界観における広大な世界の単位。ここでは「仏の教えが及ぶあらゆる世界」といった意味合いで使われています
  • 嫡嫡面授(チャクチャクメンジュ): 師が直接、法や仏祖から代々受け継がれてきたもの(ここでは主に袈裟)を弟子に授けること
  • 嵩岳(スウガク)の曩祖(ノウソ): 嵩岳は中国の山。曩祖は過去の祖師のこと。ここでは、インドから禅宗を中国に伝えた達磨大師を指しています
  • 旁出(ボウシュツ): 正嫡、つまり正統な一本道の伝承から分かれた、傍系の伝承のこと
  • 跋陀婆羅(バダバラ)菩薩: 仏教の聖者の一人。原文では、この人物からの伝承には袈裟の正伝がない例として挙げられています
  • 肇法師(ジョウホッシ): 中国の仏教学者。原文では、跋陀婆羅からの伝承が及んだ人物として挙げられています
  • 震旦(シンタン)の四祖大師: 中国禅宗の四祖、道信(どうしん)のこと
  • 牛頭山(ゴヅサン)の法融禅師(ホウユウゼンジ): 中国の牛頭禅という宗派の開祖とされる人物。原文では、中国の四祖から法を受け継いだが、袈裟の正伝は受けなかった例として挙げられています
  • 正嫡(ショウテキ): 正統な後継者、または正統な伝承そのものを指します
  • 相承(ソウジョウ): 師から弟子へと、法や教え、あるいは物(袈裟)が代々受け継がれていくこと
  • 人天(ニンテン): 人間界の衆生と天界の衆生のこと

「正嫡」と「旁出」?袈裟が受け継がれるということ

道元禅師はここで、仏の教えが広がる世界には袈裟があるが、その中でも特に「正伝の袈裟」が大切だと説いています。
正伝の袈裟とは、お釈迦さまから始まり、代々の仏祖を経て、師から弟子へと正しく、そして直接的に(嫡嫡面授)受け継がれてきた袈裟のことです。原文によれば、中国では達磨大師だけがこの正伝の袈裟をもたらしたとされています。

一方、たとえ優れた仏教の教えが伝えられていても、この「正伝の袈裟」が伴わない伝承があることを指摘しています。
跋陀婆羅菩薩から肇法師へ、あるいは中国の四祖大師から法融禅師への伝承は、教えそのものは尊いものかもしれませんが、袈裟の正伝はなかったと述べています。

では、なぜ袈裟の「正伝」がそれほど重要なのでしょうか? ソースの別の箇所では、袈裟と法は一つである、とされています。袈裟を正しく受け継ぐことは、仏法そのものを正しく受け継ぐことの証なのです。
袈裟は単なる服ではなく、「仏身なり、仏心なり」とも称され、無上の悟りへ導く護身符にもなると説かれています。

「形から入る」という言葉がありますが、道元禅師仏道を修行する上で、形を整えること、特に袈裟を正しく身につけることの大切さを強調しています。
ただ心の中で仏法を信じるだけでなく、仏祖が定めた袈裟を身にまとうという具体的な「形」が、私たち自身の内面や本質を整え仏道へと導いてくれると考えたのです。

原文では、「正嫡の伝承がなくても、如来の正しい法の功徳は広大である」と一度認めています。教えそのものに価値があることは否定しません。

しかし、その直後に「正嫡の伝承を受けたことは、伝承がないことと同等であってはならない(正嫡の方が優れている)」と重ねて強調しています。これは、やはり仏祖から一本道で受け継がれてきた「正伝の袈裟」を身につけることこそが、仏道を歩む者にとって最も確かな道である、という強いメッセージと言えるでしょう。

だからこそ、もし袈裟を受持する機会があるならば、仏祖が代々伝えてきた正伝の袈裟を伝えるべきだと結論づけているのです。


袈裟に秘められた驚きの功徳

『正法眼蔵』には、袈裟に宿る様々な功徳についても詳しく説かれています。いくつか例を挙げてみましょう。

  • 煩悩からの解脱袈裟「解脱服(げだっぷく)」とも呼ばれ、私たちを煩悩から解放してくれる力があるとされています。
  • 悟りへの護身符袈裟を身につけることは、無上の悟りへ至るための確かな護身符となります。ほんの一時でも袈裟を身につければ、必ず悟りを成就するとまで言われています。
  • 悪鬼や災難からの守り袈裟の一筋の糸を身につければ金翅鳥王(こんじちょうおう)に食べられない、人が海を渡る時に持てば龍魚や悪鬼の難を怖れない、雷や稲妻にも怖れることがない など、様々な災難から身を守る功徳があるとされています。在家の者であっても、敬って袈裟を持てば悪鬼は近づけないと言われます。
  • 罪を犯した者への救い:驚くべきことに、たとえ重い戒を犯したり、誤った考えを持ったり、三宝を軽んじたりする者であっても、もし少しでも袈裟を敬う心を持てば、将来仏となる保証(記莂・きべつ)を受けられ、仏道から退転することはない、とまで説かれています。これは、袈裟が仏の慈悲そのものであることを示しているのかもしれません。
  • 福田衣としての功徳「福田衣(ふくでんえ)」とも呼ばれ、福を生み出す田んぼに例えられます。袈裟を敬う心があれば、梵天王(ぼんてんのう)の福が生まれるとも言われています。

袈裟は、これらの驚くべき功徳を成就する「仏身」であり「仏心」なのです。その素晴らしい効能は、まさに計り知れません。


「糞掃衣」に込められた意味

袈裟の功徳を知る上で、その「材質」についても触れておきましょう。袈裟を作る布は、粗末な麻や綿が基本とされました。特に、「糞掃衣(ふんぞうえ)」と呼ばれる、捨てられたぼろ布を拾い集めて作った衣が最も清浄であるとされています。これは、過去・現在・未来の諸仏が皆清浄と認めてきたものなのです。

なぜ、汚れて捨てられた「ぼろ布」最も清浄なのでしょうか? ソースの注釈によれば、「糞掃」人間の執着の対象とならない絶対の真実を意味するとされています。
ぼろ布は、その元の形や価値を失い、貴賤に関わらず等しく「ぼろ」として扱われます。このように、物の原材料や世間的な価値といった表面的な見方から離れて、本質的な姿として捉えることが、仏法のなんたるかを知る上で大切だという教えが込められているのです。


問いかけとまとめ

いかがでしたか? 今回は『正法眼蔵』を通して、袈裟が単なる法衣ではなく、仏祖から受け継がれた確かな伝承の証であり、私たちの想像を超えるほどの深い功徳が込められていることをご紹介しました。袈裟「仏身」そのものであり、無上の悟りへと私たちを導いてくれる大切な存在なのです。

「形から入る」という言葉の通り、袈裟を身につけるという「形」を通して、仏祖から受け継がれてきた仏法の本質に触れることができるのかもしれません。現代の私たちは、なかなか袈裟を身につける機会はありませんが、袈裟に込められた意味や功徳を知ることで、仏教の教えをより身近に感じられるのではないでしょうか。

もしあなたが仏教袈裟に興味を持たれたなら、お近くのお寺を訪ねてみたり、道元禅師の教えに触れてみたりするのも良いかもしれません。袈裟を通して、奥深い仏法の世界を覗いてみませんか?

クイズの正解はC.仏祖から師から弟子へと正しく直接的に受け継がれてきた「正伝の袈裟」でした。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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