直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。
クイズ:袈裟を身につけることの功徳として、最も強調されているのは次のうちどれでしょうか?
- 財産が増える
- 無上の悟りへの護身符となる
- 人間関係が円満になる
それでは、本文に入りましょう!
原文の提示
「おほよそ仏仏祖祖相伝(ソウデン)の袈裟の功徳、あきらかにして信受しやすし。
正伝まさしく相承せり、本様まのあたりつたはれり、いまに現在せり、受持あひ嗣法していまにいたる。受持せる祖師、ともにこれ証契(ショウカイ)伝法の師資なり。しかあればすなはち、仏祖正伝の作袈裟の法によりて作法(サクホウ)すべし。
ひとりこれ正伝なるがゆゑに、凡聖(ボンショウ)人天龍神、みなひさしく証知しきたれるところなり。この法の流布にうまれあひて、ひとたび袈裟を身体におほひ、刹那須臾も受持せん、すなはちこれ決定(ケツジョウ)成(ジョウ)無上菩提の護身符子(フシ)ならん。」
現代語訳
おおよそ、仏や祖師たちが代々伝えてきた袈裟の功徳は明らかであり、それを信じ受け入れることはたやすいことです。なぜならば、正しい伝統がまさに代々受け継がれて、袈裟本来の姿がそのまま伝えられ、今このように存在しているからです。仏祖が袈裟を受けて護持し、法を継いで今に伝えてきたように、この袈裟を護持した祖師たちは皆、仏の悟りを証明して仏法を伝えた師や弟子たちなのです。
そういうわけで、袈裟は、仏祖の正しい伝統的な袈裟の作法に則って作るべきです。これだけが正しい伝統の袈裟であり、凡夫も聖人も、人間界や天上界の者も、仏法を守る龍神までもが、皆、長い間これを認めてきたものなのです。
この袈裟の法が広まる世に生まれて、一度でも袈裟を身体にまとい、ほんのわずかな時間でもそれを護持すれば、それは必ず最高の悟りである無上菩提を成就するための、身を護るお守りとなることでしょう。
語句説明
- 仏仏祖祖相伝(ぶつぶつそそそうでん): 仏から祖師へ、そして祖師から次の祖師へと、途切れることなく代々教えが受け継がれること
- 功徳(くどく): 善行によって得られる良い結果や福報。ここでは、袈裟がもたらす優れた利益を指す
- 正伝(しょうでん): 正しく伝えられた、正統な教えや伝統
- 相承(そうじょう): 師から弟子へと、教えや法が受け継がれること
- 証契(しょうかい): 仏の悟りを証明すること
- 師資(しし): 師と弟子
- 作法(さくほう): 正しい方法や手順
- 凡聖(ぼんしょう): 凡夫(悟りを開いていない普通の人)と聖人(悟りを開いた人)
- 人天(にんでん): 人間界と天上界
- 龍神(りゅうじん): 仏法を守護する存在の一つ
- 法(ほう): 仏教の教え、真理
- 流布(るふ): 世の中に広まること
- 刹那須臾(せつなすゆ): ほんのわずかな時間
- 決定成(けつじょうじょう): 必ず成就すること
- 無上菩提(むじょうぼだい): この上ない最高の悟り、仏の悟り
- 護身符子(ごしんふし): 身を護るお守り、護符
詳細な解説
袈裟、それは仏法そのもの
袈裟は、単なる僧侶の衣装ではありません。それは諸仏が敬い帰依する対象であり、仏の身体であり、仏の心そのものとまで言われます。
袈裟は、師から弟子へと正しく教えが伝えられたことの証し「伝法衣」と呼ばれ、その継承は仏法の正統性を象徴しています。
袈裟は、物質的な存在を超えて、修行者の内なる仏性を現し、悟りへと導く「象徴」なのです。
受け継がれる「正伝」の重み
釈迦牟尼仏の時代から、袈裟は摩訶迦葉(まかかしょう)へと受け継がれ、達磨大師を経て中国へ、そして日本へと代々途切れることなく、その正しい伝統が伝えられてきました。
この伝承された袈裟は「正伝の袈裟」と呼ばれ、その形や作法が今も大切に守られています。
この「袈裟の法」が広まる時代に生まれ、袈裟に出会えること自体が、前世からの善い行い(宿善)の賜物であると説かれています。袈裟を信じ、身につけることは、単なる行為ではなく、深い因縁によって導かれた幸運なことなのです。
形が導く悟りの道
袈裟がもたらす功徳は、修行者の厳しい努力(猛利恆修)によるものだけでなく、袈裟そのものが持つ「神力」によるものだと強調されます。
袈裟を身につけるという「形」を整えることが、修行者の内面を深く形成し、悟りへと導く大きな力となるのです。
そのため、袈裟は「煩悩を解脱する服(解脱服)」、「福をもたらす衣(福田衣)」、「執着を離れた無相の衣(無相衣)」など、様々な優れた功徳を示す呼び名で称えられています。
袈裟を身につけることは、煩悩から解放され、福徳を生み出す効果があるとされるのです。ほんのわずかな時間でも袈裟を身にまとうことは、最高の悟りへと至るための「護身符」となるほど、その功徳は計り知れないと説かれています。
袈裟の現実と理想
袈裟の材料としては、本来、捨てられたぼろ布を集めて作った「糞掃衣(ふんぞうえ)」が最も清浄で最上とされます。
これは、世俗的な価値観や執着を離れた、真実を意味するとも解釈されます。たとえ汚れた布であっても、洗って清めることで袈裟の材料となるように、清浄な心で用いれば、どのような材質の布でも功徳を生むのです。
しかし、日本の当時の僧侶たちは、正しい袈裟の作法や意味を知らず、華美な袈裟を好む傾向があったことが嘆かれています。
それでも禅師は、末法の時代、辺境の国である日本においては、厳格な作法にこだわりすぎず、信心さえあれば、まずは袈裟を身につけること自体が大切だと現実的な姿勢を示しています。
まとめと問いかけ
今回の記事を通して、袈裟が単なる衣装ではなく、仏法の深い教えと功徳を宿した存在であることがお分かりいただけたでしょうか。
袈裟を身につけるという「形」が、私たちの心や行動に大きな影響を与え、悟りへと導く力を持つという思想は、現代を生きる私たちにとっても示唆に富んでいます。
形を整えることで心が整う。この考え方は、日々の生活における様々な習慣にも通じるものかもしれません。例えば、仕事の前に身だしなみを整えること、部屋をきれいにすること、瞑想の姿勢をとることなど、小さな「形」から始めることで、内面にも良い変化が生まれることがあります。
あなたも日々の生活の中で、何か「形」から入ることで、新しい自分を発見してみませんか?
クイズの答え
前述のクイズの答えは…
B. 無上の悟りへの護身符となる
袈裟は、たとえほんのわずかな時間でも身につければ、最高の悟りへと導く護身符となるほどの功徳を持つと説かれています。これは、袈裟が仏法そのものと見なされ、その持つ「神力」が修行者の修行を助け、悟りへと導くという考え方に基づいています。