僧侶の究極のファッション!? 「糞掃衣」「毳衣」「衲衣」に込められた、袈裟の質素な精神

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

クイズ:仏教の修行者の衣(袈裟)として、最も清浄で最上級の素材とされたものは次のうちどれでしょう?

  1. 施主(檀那)から布施された、新品で清浄な衣材
  2. 鳥獣の細い毛を織って作った、温かい「毳衣」
  3. 捨てられたボロ布や汚物で汚れた布を再利用した「糞掃衣」

原文

おほよそ衣に三種あり。
一者(イチニハ)糞掃衣、二者(ニニハ)毳衣(セイエ)、三者(サンニハ)衲衣(ノウエ)なり。

糞掃は、さきにしめすがごとし。毳衣者(セイエハ)、鳥獣細毛、これをなづけて毳(セイ)とす。
行者若(モ)し糞掃の得べき無きには、之を取って衣と為(ナ)す。衲衣とは、朽故破弊したるを、縫衲して身に供(クウ)ず。
世間の好衣(コウエ)を著(ヂャク)せず。


現代語訳

およそ衣(袈裟)には三種類の作り方があります。一には糞掃衣(ふんぞうえ)、二には毳衣(せいえ)、三には衲衣(のうえ)です。

糞掃衣については、先に説明した通りです。

毳衣とは、鳥や獣の細い毛を織ったもので、この織物を「毳(せい)」と呼びます。もし修行者が糞掃衣として使える布を得られない場合には、これを選んで衣とします。

衲衣とは、着古して朽ち、破れた布をつづり合わせて、縫い直して身に着ける衣のことです。

修行者は、世間の美しい服(好衣)を着てはならないのです。

この教えが示しているのは、修行者が俗世の華美や執着から完全に離れ、常に質素な生活を送るという基本姿勢です。世間で「良い服」とされるものを避けることが、煩悩から離れる道とされています。


語句説明

  • 糞掃衣(フンゾウエ): 捨てられたボロ布を拾い集めて作った衣。最も清浄な衣材とされる
  • 毳衣(セイエ): 鳥や獣の細い毛を材料として織った衣。糞掃衣が入手できない場合の代替品
  • 衲衣(ノウエ): 朽ちたり破れたりした布を縫い合わせて、つづり直した衣
  • 好衣(コウエ): 世間の美しい、高級な衣服

詳細な解説

仏道修行者の「究極の質素」:三種の衣の序列

仏道における衣の選択は、単なる節約ではなく、煩悩を断ち切るための具体的な「修行」の一環です。袈裟(法衣)は、修行者が身を覆い、羞恥を遠ざけ、慚愧の心を具足して善法を修行するためのものであり、その素材選びにも厳しい基準が設けられています。

まず、修行者は世間の好衣(美しい服)を着てはならないとされています。そして、最上級とされる衣の材料には三種類が挙げられています。

  1. 糞掃衣(フンゾウエ):最上清浄の衣材。
    糞掃衣とは、墓場に捨てられた死人の服、牛や鼠が噛んだ服、焼け焦げた服など、人間が使用しない捨てられたボロ布を拾い集め、洗い、縫い直して作った衣です。この「糞掃」の概念は、人間の執着の対象とならない絶対的な真実を意味するとも解釈されます。布の原材料(絹か麻か綿か)といった世俗的な見方を捨て、ただ「糞掃」として見ることが仏道の教えであるとされます。
  2. 毳衣(セイエ):鳥獣の細毛を使った衣。
    これは、もし修行者が糞掃衣を得ることができない場合に、代わりに取って衣とすることが許されます。また、釈尊はすべての素材がない地域では皮の袈裟の使用を許したとされており、この毳衣も獣の皮などで作る衣に類する可能性があります。
  3. 衲衣(ノウエ):破れた布のつづり合わせ。
    朽ちて古くなり、破れた衣を縫い合わせて身を覆うものです。これは、布を大切にし、物資が不足しがちな修行生活において、既存のものを最大限に活かす精神を示しています。

袈裟は仏法そのものの象徴

袈裟は、単なる衣服ではなく、仏弟子の目印(標幟)であり、解脱の服福田(福をもたらす田)の衣、そして仏の身体であり、仏の心とも称されます。袈裟を身に着ける功徳は、修行者の勇猛精進の力によるのではなく、ただ袈裟自身の神力によるものだと説かれるほど、その力は不思議で計り知れないものとされています。

例えば、袈裟を身に着けることで、暑さ寒さ、蚊や毒虫から身を守るという現実的な利益がある一方で、その功徳は、わずか一日一夜でも護持すれば、必ず無上の悟りを成就する護身符となるとされています。また、戯れに袈裟を身に着けただけでも、三生後には仏道を悟る因縁となるという逸話も説かれています。

この教えは、素材が何であれ、それを「糞掃衣」として見、仏道のために恭しく使用するという「心」が、袈裟に宿る功徳を引き出すことを示唆しています。


問いかけとまとめ

仏教の修行者が最も尊んだのは、誰にも顧みられない「糞掃衣」でした。これは、世間の価値基準(豪華さ、美しさ)を徹底的に否定し、すべては仏道のための清浄な材料であると見なす、徹底した無執着の精神を象徴しています。

私たち現代人も、日常の生活において、目先の利益や世間の評価に囚われがちではないでしょうか。もし、私たちが身の回りにある不用なものや、見過ごしがちなものの中に「仏道の真実の材料」を見いだすことができたなら、それはどれほどの喜びになるでしょうか。

「袈裟は金剛の甲冑なり」と説かれるように、形を整えることで心が整い、煩悩の毒矢に害されない堅固な精神を養うことができます。日々の生活の中で、謙虚さや質素さを心がけることは、まさに現代における「糞掃衣」の精神を実践することに繋がるのかもしれません。


クイズの答え

C. 捨てられたボロ布や汚物で汚れた布を再利用した「糞掃衣」

解説:
仏道では、糞掃衣(フンゾウエ)が最上第一の清浄な衣材とされます。これは、修行者が世間の欲や執着から完全に離れ、粗末なものを用いることで仏道に専念する姿勢を示すためです。世間の美しい衣(好衣)は身に着けません。糞掃衣が得られない場合に、鳥獣の毛で織った毳衣や、朽ちた布を縫い合わせた衲衣が用いられました。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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