袈裟(けさ)の不思議な力:遊女から阿羅漢へ!三世にわたる宿縁の物語

直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。

クイズ:比丘尼が遊女だった時、彼女の運命を決定づけた行動は何でしょうか?

  1. 貧しい人々に施しをしたこと
  2. 比丘尼の衣(袈裟)を身に着けてふざけたこと
  3. 仏法を真剣に学んだこと

原文

比丘尼(びくに)言(い)く、

「我(わ)れ自(みずか)ら本宿命(ホンシュクミョウ)を憶念(オクネン)するに、時(とき)に戯女(ケニョ)と作(ナ)り、種々(シュシュ)の衣服(エブク)を著(ジャク)して旧語(クゴ)を説(と)く。

 或(あ)る時、比丘尼衣を著(ジャク)して、以(もっ)て戯笑(ケショウ)を為(な)す。是(こ)の因縁(いんねん)を以ての故に、迦葉仏(カショウブツ)の時、比丘尼と作(ナ)りき。

 時(とき)に自(みずか)ら貴姓端正(キショウタンジョウ)なるを恃(たの)んで、憍慢(キョウマン)を生じて禁戒(きんかい)を破(やぶ)る。禁戒を破る罪の故に、地獄に堕(お)ちて種々の罪を受く。

受(う)け畢竟(オワ)りて釈迦牟尼仏(シャカムニブツ)に値(ア)ひたてまつりて出家し、六神通(ロクジンヅウ)阿羅漢道(あらかんどう)を得たり。」


現代語訳

そこで尼僧(優鉢羅華比丘尼のこと)は言いました。

「私は、自分の過去世(前世)を思い起こしてみますと、ある時は遊女(戯女)となり、様々な美しい服を着て、客に親しげに話しかけていたことがありました。

ある日、私は尼僧の衣(袈裟)を身に着けて、ふざけて笑い合ったのです。このたった一度の戯れの因縁によって、後に迦葉仏が世に出られた時代に、私は尼僧となることができました。

しかし、その迦葉仏の時代に尼僧となった時、私は自分の生まれが高貴であることや、姿が美しいことを恃みにして傲慢な心(憍慢)を起こし、仏道の禁戒を破ってしまいました。禁戒を破った罪の報いによって、私は地獄に堕ちて様々な苦しみを受けました。

その罰を受け終わった後、今度は釈迦牟尼仏にお会いすることができ、出家して修行に励んだ結果、六種の神通力と聖者の悟りの道(阿羅漢道)を得ることができたのです。」


語句説明

  • 本宿命(ホンシュクミョウ):過去のありのままの生を思い起こすこと。六神通の一つである「宿命通」と関連する
  • 戯女(ケニョ):客に戯れ親しむ女、遊女や芸妓、または役者のこと
  • 戯笑(ケショウ):ふざけて笑うこと、また、軽々しく扱うこと
  • 迦葉仏(カショウブツ):釈迦牟尼仏の前に出世した過去七仏の第六仏
  • 貴姓端正(キショウタンジョウ):生まれが高貴で、姿が美しいこと
  • 憍慢(キョウマン):自らを偉いと思って他者を見下す傲慢な心
  • 六神通(ロクジンヅウ):仏道の修行によって得られる六種の超人的能力。具体的には、神境通、他心通、天眼通、天耳通、宿命通、漏尽通の六つを指す
  • 阿羅漢道(あらかんどう):煩悩を断ち切って悟りを得た、仏教における最高の聖者の位に到達する道

詳細な解説

戯れの袈裟が植えた「成仏の種」

この物語の主人公は、龍樹祖師が説いた優鉢羅華比丘尼(蓮華色比丘尼)です。彼女の人生の転機は、遊女であった頃に、比丘尼の衣(袈裟)を借りて「ふざけた」という些細な行動にありました。

この行為は、信心に基づいたものでも、真剣な修行でもありませんでした。しかし、袈裟という「仏の身体であり、仏の心」そのものとされる「解脱服」に身を包んだという「因縁」は、彼女の運命を決定的に変えました。

袈裟は、たとえ戯れのためや利益のために身に着けられたとしても、必ず「仏道を悟る因縁となる」という大きな功徳を持っています。彼女はその功徳によって、次の生(第二生)で迦葉仏の教えに出会い、尼僧となることができたのです。これは、袈裟の持つ「神力は不思議なり」という力が現実にもたらした奇跡と言えるでしょう。

破戒と地獄の苦しみも超える仏縁

比丘尼は迦葉仏の時代に尼僧になったものの、今度は自分の高貴な生まれや美しさに慢心し、ついには禁戒を破るという重罪を犯してしまいます。その罪の報いとして、彼女は地獄に堕ち、様々な苦痛を受けました。

しかし、彼女の運命は、ただ悪事を重ねて地獄と俗世を繰り返すだけの「作悪人」とは異なりました。

彼女には、過去世に袈裟に触れた「戒の因縁」がすでにありました。この因縁のおかげで、たとえ禁戒を破って地獄に堕ちたとしても、その罪の報いを受け終われば、最終的には「道を得る」ことが保証されていたのです。

彼女は地獄の苦を畢竟(おわり)にした後、釈迦牟尼仏に巡り会い、再び出家して修行を積みました。そしてついに、三明(三種の智慧)と六神通を具えた大阿羅漢の位を得たのです。

龍樹祖師の教えによれば、この比丘尼が聖者の道を悟った初めの原因は、「袈裟を戯笑のためにその身に著せし功徳」によるものであり、決して他の功徳によるものではない、と強調されています。


問いかけとまとめ

この優鉢羅華比丘尼の物語は、仏教における「因縁」と「袈裟の功徳」の深遠さを教えてくれます。

私たちは、袈裟を身に着けた者を見るだけでも、「不退転の力」(悟りの道から退かない力)を得ると説かれています。また、仏道に志す者であれば、正しい伝統の袈裟を受持し頂戴することこそが、「最勝最上なる功徳」をもたらします。

もし今、あなたが仏縁を感じたり、伝統的な仏教の文化に興味を持ったりしたのなら、それは過去世に積んだ「宿善」(善根)による幸運かもしれません。その縁を大切にし、袈裟のような仏法を象徴する「形」に触れることが、私たち自身の心身(身心依正)を転じ、未来の悟りへと導く確かな一歩となるでしょう。

袈裟は単なる布ではありません。それは、仏祖の「皮肉骨髄を正伝せる」もの、すなわち仏法そのものです。この尊い縁を深く敬い、日々の生活の中で仏道を志す心を育んでいきましょう。


クイズの答え

クイズの答えはBです。

B. 比丘尼の衣(袈裟)を身に着けてふざけたこと

解説:

比丘尼が遊女であった時、ふざけて(戯笑を為す)尼僧の衣を身に着けたこと が、彼女の運命を転換させる「戒の因縁」となりました。彼女が後に地獄に堕ちるほどの罪を犯しても、この袈裟の功徳によって「三生に得道す」、すなわち第三生で六神通阿羅漢道を得るという結果に結びついたのです。これは、袈裟が持つ「不可思議なる」功徳を示す、典型的な事例として語られています。

この記事を書いた人

直七法衣店 四代目 川勝顕悟


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