直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。
『正法眼蔵』の「浣袈裟法」において、袈裟を洗う際に、原則として禁じられている行為は次のうちどれでしょうか?
- 畳んで洗う
- 灰水(あくのゆ)を使う
- 冷水を使う
原文
浣袈裟法(カンケサホウ)
袈裟をたたまず、浄桶(ジョウソウ)にいれて、香湯(コウトウ)を百沸して、袈裟をひたして、一時(イットキ)ばかりおく。
またの法、きよき灰水(カイスイ)を百沸して、袈裟をひたして、湯のひややかになるをまつ。いまはよのつねに灰湯をもちゐる。
灰湯ここにはあくのゆといふ。灰湯(カイトウ)さめぬれば、きよくすみたる湯をもて、たびたびこれを浣洗するあひだ、両手にいれてもみあらはず、ふまず。あかのぞこほり、油のぞこほるを期(ゴ)とす。そののち、沈香(ジンコウ)、栴檀香等を冷水に和(ワ)してこれをあらふ。
そののち、浄竿(ジョウカン)にかけてほす。よくほしてのち、摺襞(シュウヘキ)して、たかく安じて、焼香散華して、右遶数帀(ウニョウスウソウ)して礼拝したてまつる。
あるいは三拝、あるいは六拝、あるいは九拝して、胡跪(コキ)合掌して、袈裟を両手にささげて、くちに偈(ゲ)を誦(ジュ)してのち、たちて如法(ニョホウ)に著(ヂャク)したてまつる。
現代語訳
袈裟を洗う作法についてです。
袈裟は畳まずに水桶(浄桶)に入れ、十分に沸かした清浄な湯(香湯)に浸してしばらく置きます。
もう一つの方法は、よく沸かした清浄な灰水(あくの湯)に浸し、湯が冷めるのを待つというものです現在では通常この灰湯が用いられています。
灰湯が冷めた後、澄んだ湯で何度も洗い清めますが、この際、両手でもみ洗いをしたり、足で踏み洗いをしたりしてはいけません。垢や油が取り除かれるまで洗うことを目標とします。
その後、沈香や栴檀香などを混ぜた冷水で洗い、清浄な竿にかけて十分に干します。
乾いたら畳んで高い場所に安置し、香を焚き、花を散らし、右回りに数回回って(右遶数帀)礼拝します。
そして、三拝、六拝、あるいは九拝し、胡跪(片膝立ち)して合掌し、袈裟を両手で捧げ、偈文を唱えてから、立ち上がって作法通りに着用します。このとき唱えられる偈には、「大いなる哉、解脱服」という言葉が含まれます。
語句説明
- 浄桶(ジョウソウ):袈裟を浸す清浄な水桶
- 香湯(コウトウ):香木などを入れた湯、清浄な湯のこと
- 灰水(カイスイ)/ 灰湯(カイトウ):木灰の灰汁(アク)の湯、当時の一般的な洗浄剤
- 摺襞(シュウヘキ):袈裟を畳むこと
- 右遶数帀(ウニョウスウソウ):右回りに何回か回ること
- 胡跪(コキ):右膝を地に着け、左膝を立てて上体を起こす敬虔な姿勢
- 偈(ゲ):仏の教えを韻文で説いたもの
- 如法(ニョホウ):仏法、作法に従うこと
詳細な解説
袈裟を「物」として扱わない心構え
袈裟は、仏の教えの真髄である「正法眼蔵」を正しく伝えている仏祖の皮肉骨髄そのものであるとされています。そのため、その取り扱いには徹底した恭敬の念が求められます。
原文で「袈裟をたたまず」に水桶に入れる とあるのは、袈裟全体が湯水によく浸されるようにするためであり、単に「畳む」という行為すら避ける、丁寧な扱いの姿勢が示されています。
また、両手で「もみあらわず、ふまず」と禁じられているのは、袈裟を乱暴に扱ってはならないという教えの現れです。この作法からは、形を整えることが内面を整え、本質を自ずと作っていくという、禅師の「形から入る」思想が見て取れます。
伝統的な清浄法としての「灰湯」
洗濯に「きよき灰水(あくのゆ)」を使う方法が記されています。これは、石鹸が普及する以前、日本でも広く一般的に使われていた木灰の灰汁を用いた洗浄法です。
袈裟の材料は、もともと「糞掃衣」(人が捨てたぼろ布を拾い集めた衣)を最上とするため、粗末な布が推奨されていますが、この灰湯を用いる作法は、袈裟の清浄性を保つための現実的かつ伝統的な知恵でもありました。
袈裟を身に着ける前の荘厳な儀式
洗濯と乾燥を経て袈裟が「浄竿」から下ろされた後、それを身に着ける前には、安置し、焼香散華(しょうこうさんげ)を行い、右回りに数回回る右遶(うにょう)をして礼拝するという厳粛な儀式が伴います。
特に、袈裟を頭上に捧げ載せて合掌する「頂戴」の作法は、禅師が宋国で初めて目の当たりにした際、古く阿含経に記されていた作法と同じであることに気づき、計り知れない歓喜と感涙を覚えた出来事として記録されています。この時に唱える偈文「大いなる哉、解脱服」は、袈裟が無上の悟り(阿耨多羅三藐三菩提)への護身符であることを讃えるものです。
この浣袈裟法を通じて、袈裟は単なる衣ではなく、仏の教えと功徳が具現化した「宝」として、常に尊重し、恭敬の心を持って護持すべき対象であることが示されています。
問いかけとまとめ
袈裟の洗濯一つとっても、ここまで厳密な作法と恭敬の念が求められるのは、袈裟が仏道を成就させる確かな因縁(功徳)を持つからです。袈裟は、修行者の勇猛精進の力以上に、それ自体が持つ神力(不思議な力)によって功徳をもたらすと説かれています。
私たち現代人が、この「浣袈裟法」から学ぶべきは、日常生活の中で、身の回りのものをどのように扱い、心に何を宿すべきか、という点ではないでしょうか。形を整え、対象を敬う姿勢が、私たち自身の内面を清浄にし、善き行いを増長させる(十善業道)第一歩となるのかもしれません。
日々の生活において、何かを「恭敬」し、形から入ることで、自己の精神を律する機会を持てていますか?
クイズの答えと解説
A. 畳んで洗う
解説:袈裟を洗う際は、全体が湯水によく浸るように「たたまず」に浄桶に入れることが作法とされています。また、手で「もみあらわず」、足で「ふまず」というように、袈裟を乱暴に扱うことは特に禁じられています。灰水(あくの湯)や冷水は、作法の中で使用が許容、または推奨されています。