直七法衣店4代目ナオシチです。今日もみんなで袈裟功徳について学んでいきましょう。
3択クイズにチャレンジ!答えは最後に。
お釈迦様は、ある冬の夜、竹が裂けるほどの厳しい寒さにどう対応されたでしょうか?
- 薄着で耐え忍び、修行の厳しさを示した。
- 気温の変化に合わせて、異なる種類の袈裟を重ねて着用した。
- 弟子たちに火を焚かせ、暖を取ることを命じた。
答えは記事の最後に! 読み進めて、その知恵に触れてみましょう。
原文
又復(マタ)調和熅燸(ウンナン)の時には五条衣を著し、寒冷の時には七条衣を加著(カヂャク)し、寒苦厳切なるには、加へて以て大衣を著す。
故往(コオウ)の一時、正冬(ショウトウ)の夜に入りて、天寒くして竹を裂く。如来、彼の初夜の分時に於いて五条衣を著す。夜久しく転(ウタ)た寒きには七条衣を加ふ。夜の後分(ゴブン)に於いて天寒転た盛んなるには、加ふるに大衣を以てす。
仏便(スナワ)ち念を作(ナ)さく、未来世の中に寒苦を忍びざるには、諸の善男子(ぜんなんし)、此の三衣を以て足して充身することを得べし。
現代語訳
また、気候が良くて暖かい時には五条衣を着け、寒い時には七条衣を重ね着し、寒さが厳しくなれば、更に大衣を重ねて着なさい。
昔ある冬の最中、夜に入ると竹が割れるほど冷えました。釈尊はその夜、初めの頃は五条衣を着ていました。夜も深まり寒さが増してくると七条衣を重ねて着ました。夜明け前になって、寒さがますます厳しくなると、更に大衣を重ねて着ました。
そこで釈尊は思いました。「未来の世において、出家者が寒さに耐えられない時には、この三衣を重ねて着ればよい。」と。
語句説明
- 五条衣(ごじょうえ): 袈裟の一種で、修行中の作業着や普段着として用いられる簡素な衣。労務や大小便の際などに着用される
- 七条衣(しちじょうえ): 袈裟の一種で、様々な善行を行う際や衆僧が集まる場などで用いられる衣
- 大衣(だいえ): 袈裟の一種で、九条以上の布を縫い合わせた最も格式の高い衣。説法や王宮・村に入る際など、改まった場で着用される
- 加著(かじゃく): 重ねて着ること
- 故往(こおう): 昔のこと
- 正冬(しょうとう): 冬の最も寒い時期
- 分時(ぶんじ): 時間の区分
- 善男子(ぜんなんし): 仏道修行に励む男性を指す言葉
- 三衣(さんえ): 仏教における三種の袈裟、すなわち五条衣、七条衣、大衣のこと
- 充身(じゅうしん): 身を満たす、つまり十分な役割を果たすこと
解説
袈裟:単なる衣服ではないその意味
袈裟は、単なる僧侶の衣服ではありません。それは諸仏が敬い帰依されるものであり、仏の身体そのもの、そして仏の心そのものであると説かれます。
古くから「解脱服(げだっぷく)」とも呼ばれ、身に着けることで過去の悪行や煩悩、苦しみから解放されるとされています。
その功徳は計り知れず、龍が袈裟の糸一筋を得て災厄を免れた話や、牛が袈裟に触れて罪が消滅した話まで伝えられています。
本来、袈裟は捨てられたぼろ布(糞掃衣:ふんぞうえ)を拾い集めて作られることが最上とされました。これは、世俗の欲や執着から離れることを象徴しています。
このことから、袈裟は布の材質(絹か麻か綿か)を問題とするものではなく、「糞掃衣」というその本質的な意味合いを理解し、尊重することこそが重要だと説かれます。
寒さに合わせた袈裟の使い分け:釈尊の知恵
本記事の引用部分では、袈裟が修行の場だけでなく、実生活においてもいかに理にかなったものであるかが示されています。
釈尊は、気候の暖かさに合わせて五条衣を、寒さに応じて七条衣を、そして厳しい寒さには大衣を重ね着するように教えられました。
これは、単に寒さをしのぐための知恵に留まりません。五条衣は労務や日常の作業用、七条衣は集まりや善行の時、そして大衣は人々に法を説く際や王宮など公的な場での着用が定められています。
つまり、袈裟は目的に応じた使い分けがあると同時に、季節や気候の変化に柔軟に対応できる実用性も持ち合わせていたのです。お釈迦様ご自身が、極寒の夜にこの「三衣」を重ねて着用し、未来の修行者が寒さに耐えられない時のためにその方法を残されたという逸話は、袈裟が単なる装飾品ではなく、修行者の生活と一体となった道具であったことを示しています。
機能性と精神性:袈裟に込められた功徳
袈裟の功徳は多岐にわたり、「十勝利(じゅっしょうり)」として説かれています。
これには、羞恥を遠ざけ善法を修行できること、寒熱や虫害から身を守ること、出家僧の姿を示し見る者に歓喜をもたらすことなどが含まれます。
さらに、袈裟は罪業を消し、十善業道(善い行い)を増長させ、煩悩の毒矢から身を守る「甲冑」のようなものとも例えられます。
特筆すべきは、これらの「勝利」が修行者の勇猛精進の力だけでなく、袈裟自体の不思議な神力によるものとされている点です。
道元禅師は、形(袈裟を身に着けること)が人の内面を作り、本質を自ずと作っていくという考え方を示しています。たとえ戯れに袈裟を身に着けたとしても、それが後に仏道を悟る「因縁」となるという話は、その功徳の広大さを示唆しています。
問いかけとまとめ
お釈迦様の袈裟の着用法は、私たち現代人にも通じる教訓を与えてくれます。それは、変化する環境に柔軟に対応しながらも、それぞれの状況に合った適切な振る舞いや準備をすることの大切さです。
また、袈裟が持つ精神的な意味合いは、形から入ることで心が整い、ひいてはそれが自己の本質的な変革へと繋がるという「形入」の教えに通じます。
私たちは僧侶でなくとも、日常生活の中で「袈裟」に相当する「心の服」を意識できるかもしれません。
それは、仕事の場での「プロ意識」、家庭での「慈愛」、地域活動での「奉仕の心」など、それぞれの役割に応じた「袈裟」をまとうことと言えるでしょう。
形から入ることで、その役割が持つ精神性や功徳が、私たち自身の身心に染み渡っていくのではないでしょうか。
クイズの答え
冒頭のクイズの答えは…B. 気温の変化に合わせて、異なる種類の袈裟を重ねて着用した。
【解説】
釈尊は、夜の寒さが増すにつれて、まず五条衣を、次に七条衣を、そして最も寒い時間帯には大衣を重ね着されました。この経験から、未来の弟子たちも三衣を重ねて着ることで寒さをしのげるだろうと考えたのです。
これは、仏教の教えが単に精神論に終わらず、現実的な生活の知恵と深く結びついていることを示しています。